最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)1653号 決定 1951年3月29日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告人の上告趣意について。
所論は、量刑不当の主張に帰するから、適法な上告理由ではない。
弁護人上田次郎の上告趣意について。
記録を精査すると、本件では、裁判官は検察官の立証前所論相被告人に対し何等詳細な訊問をしていない。ただ被告人自身の弁護人橋本福松が検察官の立証に入るに先立ち相被告人金在善に対し詳細な質問をし同人がこれに対し任意供述しているに過ぎない。そして、刑訴三一一条二、三項によれば、被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができ、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて前項の供述を求めることができるのであるから、前記弁護人質問は違法ではない。されば、所論引用の高等裁判所の判例はいずれも本件に適切ではない。ことに刑訴二九一条による手続が終った後ち証拠調に入る前に裁判官が被告人に対し公訴事実について質問しても必ずしも違法であるといえないことは当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二五年(あ)三五号同一二月二〇日大法廷判決)これを違法と解する高等裁判所の判例は自然変更されたものである。それ故所論は、いずれの点からしても明らかに刑訴四〇五条三号に該当しない。
よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)